谷川俊太郎

誰にでも自分に必要な言葉ってのがあると思う。でもそれが前もって分かってる訳じゃない。その言葉に接して初めて、ああこういう言葉を自分は欲していたんだと知る。必要な言葉はアタマやココロだけでなく、カラダの奥にまで入ってくる、いわゆる〈腑に落ちる〉んだ。 このごろ、小説の言葉がぼくには不要になりつつある。面白いけどいまこういう言葉は自分に必要じゃないと感じてしまう。年取って人生の基本が腑に落ちてくると、細部がどうでもよくなってくるのかもしれない。詩の言葉はいまだに不要じゃないようだ。これは自分でも書いてるから。